● 昨日の巴里 モンマルトル
モンマルトルの丘、東側の裾野はバルベス地区と呼ばれる庶民街で、小さな家々が立ち並ぶ風情のある一画を成していました。この絵は二十数年前の素描を元に、そのモンマルトル・バルベス地区の、再開発で取り壊されつつある古いアパート群を描いたものです。
画面の右上、建物最上部の円筒形は階段塔で、ピジョニエ(鳩小屋の意)と呼ばれています。中は螺旋階段で、パリのアパート建築のありふれた作りですが、建物の裏側、中庭側に作られるため、普段、表通りから眺めることは出来ません。家並が壊されるときにだけ、こうして離れた位置から様子を見ることができます。
パリに来て間もない頃に出会ったこの風景は大変印象深く、また階段塔をはっきりと見たのもそれが最初だったと思います。現在は小公園となっているこの場所には、それから幾度も訪れては素描を繰り返したものです。土管が転がる原っぱで遊んいる近所の子供たちが、スケッチの進み具合を見に来ては、また遊びに戻っていきました。そのなかの一人の子から、自分は画家になりたい‥その絵を譲ってほしい、とせがまれて困りました。何となく楽しい記憶。そして壊されつつある風景への執着といった幾つもの思いが、古い素描を見るたびによみがえります。
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